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イベント【鶴岡ふうど駅スポ】緑の山伏〜出羽の食から見る未来〜レポート/後編

2013/09/04

2013年6月15日(土)、16日(日)、山形県鶴岡市で、食の祭典「鶴岡ふうど駅スポ」が開催されました。

「食と工芸」「食と祈り」「食を受け継ぐ」などのテーマに合わせて、鶴岡の豊かな「食」の魅力を伝えるこのイベントのもうひとつのテーマ、それは「継ぐ」ということ。

鶴岡という風土で培われてきたさまざまな知恵や文化を、次の世代にどう継いでいくか。今を生きる我々にとって重要なこのテーマを、鶴岡アートフォーラムで開催された「アトツギ」展と、もうひとつのトークイベント「ブナ帯の自然から農家の台所まで」を通して、考えてみました。(前編はこちら

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緑の山伏」を支える、若手山伏の存在

山を中心としたひとつの精神文化をいまに伝える山伏。鶴岡はまわりを山に囲まれ、その一番奥に、非常に高い精神性を持つ出羽三山(羽黒山、月山、湯殿山)があります。その山の文化を中心に据え、これからの生き方に実践として取り入れようと発足されたのが「緑の山伏」です。

その「緑の山伏」の発足メンバーでもあり、現在、鶴岡で山伏の文化を伝えるさまざまな活動を行っている、山伏の成瀬正憲さんは、野生の科学研究所の研究員でもあります。成瀬さんは、かつて中沢所長のもとで学び、山伏修行を機に鶴岡に通ううち、「そこに行かないと見えないものがあるんじゃないか。たびたび訪れるだけの旅人ではない視点がきっとあるはず」と鶴岡に移住を決意しました。

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実際に住んで、四季を通して見えてきたのは、冬の過酷さと春の踊り出すような喜びでした。

「1年の1/3が冬。毎日雪かきをしてもまた積もる。それを耐え忍んできた東北の人たち。そうした雪に象徴される自然は人間には飼いならせません。時には怪物のように襲いかかり、時には美しいものも見せてくれる。それは住んでみて改めてわかったことでした」(成瀬さん)

成瀬さんが学生時代から考えていたのは「文化をどう継承していくべきか」ということ。それがひとつの形に結実したのが「出羽三山精進料理プロジェクト」です。羽黒山にある約30もの宿坊には、それぞれ伝統ある精進料理がありました。京都や和歌山県の高野山など、ほかの地域のものとは異なり、山の恵みを中心とした出羽三山の精進料理は、手間ひまかけて女将たちが各宿坊に伝えられた知恵と技術で丁寧に作ってきたもの。このプロジェクトは、精進料理という共通項で、各宿坊同士を横につなぎ、また女将から若女将へと縦にもつないでいくことで、今まで伝えられてきた食文化を守って行こうと動き出しました。

「地域がいきいきとする場づくりが大切なんです。伝統と継承。今まで孤独だったそれぞれの関係を変えていくことができました」(成瀬さん)

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成瀬さんは個人でも小さな経済をまわしていくことにチャレンジしたいと「日知舎(ひじりしゃ)」を昨年立ち上げました。「いまに残る知恵と地域の経済をつなげることができたら」と、文化継承のための地域経済をテーマに日々活動しています。「日知」とは、「自然を知っている人」という意味で、いまでいうNPOのような社会事業も行っていたとされる人のこと。

「自然を通して何をやるべきか考え、それを実践していきたい」と成瀬さんは語ってくれました。

大切なものを継いでいく「アトツギ展」

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鶴岡アートフォーラムで6月23日まで開催された「アトツギ展—鶴岡の食の継ぎ方」。そこで紹介されたのは、鶴岡の伝統的な暮らしでした。

月山とともに生きる人の山の知恵、宿坊での精進料理、焼き畑農や在来種の種を継ぐ人々など、どれも私たちが大切に引き継ぎ、受け継いでいかないと消えてなくなってしまう知恵や文化。その大切さにあらためて目を向け、その意味を考える好機となる展覧会でした。

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展示のひとつ、「アトツギの継ぎ目」にも登場する、長南光(ちょうなん・みつ)さんは、鶴岡市郊外で農家民宿「知憇軒(ちけいけん)」を運営しています。

長南さんは、暮らし方や食の知恵など、家族が暮らしの中で受け継いできたものを「変えていくのもいいけれど、これだけは変えたくないというものがあって、それをきちんと守っていく」という思いがあるから、「簡単にやめることはできない」といいます。壊すのはいとも簡単。そこに住んできた人たちの気持ちを継いでいくことこそ、私たちにできることなのではないでしょうか。

「アトツギ」とは、親から子、師匠から弟子など、さまざまな関係がありますが、それはつまり「伝承していく」ということ。これからの働き方や生き方のひとつとして「継いでいく」ことの大切さを感じます。

長南さん

台所から「理」を見る

今回、長南さんとともに、風土と食を研究されている「食の研究工房」を主宰している林のり子さんの対談も行われました。

林さんは東京・田園調布で「パテ屋」を営む傍ら、食のあり方を、森や植生から研究され、フランスと日本の共通点は「ブナ帯(ブナに代表される落葉広葉樹林)」にあると話してくれました。「パテ」とはヨーロッパの保存食のこと。保存という知恵は、四季を通じて生まれた必然のもの。それは「気候、風土に合わせ、人間と自然が相談しながら作ってきた知恵」でもありました。

日本でも有数のブナ林が多いとされる東北は、山や里山を中心とした生活でもあります。林さんがさまざまな地域をフィールドワークし、研究してきた膨大な資料をもとに紹介してくれたのは、ブナ林の豊かな営みでした。

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四季に合わせた山の恵みとともに、種を蒔いて栽培し、たくさん採れれば保存する。そうした一年を通じた、昔ながらの食のサイクルを実践する長南さんが、採取し、育て、作る料理を食べに、全国から人が集まります。

おふたりをよく知るコーディネーターの三谷葵さんはこう話します。

「おふたりの共通点は台所から理(ことわり)を見る人だということ」。

決して大きくはない、自分の小さな台所から自然を感じること。2人の普段の暮らしの中にこそ、「本当に必要な知識があるように思います」(三谷さん)。

鶴岡という場所のみならず、いま全国で消えつつある知恵や文化があるという現実。そのことに多くの人が気づき始め、守りたい、受け継いでいきたいと思う人々が、全国各地で、これからも現れることを願うばかりです。

 

(取材・文/薮下佳代 写真/成瀬正憲、アトツギ編集室、野生の科学研究所)

 

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