Activities

【JA共済総研公開研究会】自然と人間の協働による永続的な地域社会づくり レポート

2014/05/02

2013年3月12日(水)、JA共済総合研究所にて、公開研究会「自然と人間の協働による永続的な地域社会づくり 〜食・自然エネルギー・ケアでつながる新たな生活基盤の可能性を探る〜 」が開催されました。愛知県・三河中山間地域における地域再生プロジェクトの研究報告と、中沢所長を交えたディスカッションの模様をお伝えします。

jayousu

この公開研究会のパネリストであるお三方は、それぞれ、ケア、食、自然エネルギーを軸として、地域再生につなげるプロジェクトを展開しています。その個別報告では、これからの地域コミュニティづくりのヒントとなるような、具体的な試みが発表されました。

1)地域に根ざした医療サービス

まず、ケアの問題から。地域に根ざした医療・福祉・介護サービスのあり方について、さまざまな試みを展開するのが、愛知県厚生連足助病院の院長である早川富博氏。

hayakawasan

この地域では、少子高齢化と過疎による問題に加え、山間部という地形により、移動や通院などに困難をきたし、良質なサービスがなかなか提供しづらい現状がありました。そうした課題を解決するべく、2010年3月より「三河中山間地域で安心して暮らし続けるための健康ネットワーク研究会」を設立。高齢者の通院の際の送迎や自宅への配食サービスを提供したり、地域住民参加型のさまざまな健康教室などを開催してきました。その活動拠点である足助病院は、地域医療の現場でありながら、地域コミュニティの場としても機能しており、この地域になくてはならない存在です。地域に根ざしたこうした取り組みは、高齢化が進むこれからの地域医療を考えるうえでも、重要な事例になることでしょう。

2)豊富な地域資源を活かした組織づくり

次に、昨夏、中沢所長も訪問し講演会を行った(その時の様子はこちら)、JA愛知東の河合勝正組合長による報告は、農業生産を通じた、地域住民による相互扶助のあり方でした。

kawaisan

JA愛知東の管内は、山林が90%を占め、3つの1級河川の源流域でもあり、天然記念物や国・県指定の名勝が数多く存在する、まさに自然の宝庫。そうした恵まれた土地から生まれる豊かな地域資源を活かした、組合員による組織、人材育成の活動を応援しています。なかでも、女性部による活動は特に活発に行われており、77にもおよぶ目的別の組織は、そのいずれもが、地域の活性、住民の暮らしを根底から支える、重要な役割を担っています。そうした、自然・地域・人が、密接なつながりを持ちながら、その土地の魅力を高め、住民の意識と暮らしのさらなる向上を目指すJAのあり方は、これからの農村のひとつのモデルとなるのではないでしょうか。

DSC_1160

3)自然エネルギーによる地域活性

最後は、東京農業大学農山村支援センターの副代表を務める澁澤寿一氏による、岡山県真庭市の再生可能エネルギー導入の成功事例について。

shibusawasan

森林率81%の真庭市で持続可能な地域産業として始まったのが、豊富な木質資源を活用する「バイオマスタウン構想」でした。木材として活用する以外の今までゴミとして処理をしていたあらゆる木材をエネルギーや新素材に変えるバイオマス事業を展開し、地域内エネルギーの自給を目指しています。地域内の資源を活かしてエネルギー生産し、地域内で消費するという、この理想的な取り組みは、単なるエネルギー自給の事業ではなく、地域経済、地域社会の再生をも含む、もっと大きなものでした。地域における、環境、教育、医療、福祉、エネルギーなど、すべての要素が複雑につながりを持ちながら、住民らの生活をよりよいものへ変えていく事例として、大いなるヒントを与えてくれました。

 

地域社会が目指すべき方向とは

これらの報告をもとに行われた、後半のディスカッションからは、中沢所長も参加。地域の問題のみならず、いま日本が直面している問題解決への糸口となるような、活発な意見が交わされました。

discussion

「今日のお三方の報告から、共通した課題が浮かび上がってきました。我々の社会がどういう方向へ向かっていけばいいのか。そのひとつの見取り図のようなものを見せてくれたように思います」という冒頭の中沢所長の話から、さまざまな課題へと話はおよびました。

たとえば、高齢化問題。河合組合長によれば、JA愛知東は、高齢化比率が52.3%に達しており、いわゆる限界集落と呼ばれる地域に属しますが、「そんなに悲観的ではない」と話します。

「むしろ、都市部で暮らすよりも、人とのつながり、ふれあいがあり幸せな地域なのではと思っている。どんな場所であっても人口減少という現実から逃げるわけにはいかない。そこでどれだけ、楽しく暮らしていけるか。その暮らしを支える、女性の力がこれからもっと必要になってくる」(河合組合長)

中沢所長も、「家族のかたちが変容していく時代にあって、IターンやUターンなど、その土地に縁のなかった人々も受け入れていこうとするのは、女性たち。新しい地域の共同体のあり方に、JA愛知東の女性たちは、柔軟かつ大胆な考えを示していたのがとても印象に残りました。そうした彼女たちの活力、考えは、これからの力の源泉になっていくはず」と、JA愛知東の女性部の存在の強さについて、話しました。

ohana

澁澤氏は、「都市の過疎化の方がはるかに深刻。地方はどんなに高齢化しても、食べ物を作る土地があり、人間関係がある。物質的豊かさではなく、自分の生活の基盤を作れる場所」であると地方を位置づけました。

sensei

また、さらに地域という共同体のあり方ついて、中沢所長は「お金によらないでまわっている部分がある共同体のこと」だとし、早川院長の足助病院は医療サービスを提供するだけでなく、その文化、精神的支柱となる地域コミュニティの核となる場所として、「それはまさに昔のお寺のようなもの。精神的、サービスの拠り所でもある」と話します。

「都市はお金で動いている。社会福祉も税金で、それはお金です。地域というのは、自然との関係性をベースにしながら、お金によって動かない部分によって、人と人を結んだり、助けたりする共同体のことなのだと思います。場所にかかわらず、このことを意識すれば、どこでだって地域はつくれるんです。だから、都市が地域になれないってことはない」(中沢所長)

 kawaii

さらに、農業を含めた食の問題。これは、JAだけではなく、いま日本人にとって切実な問題でもあります。食と健康という観点からいえば、「人の命にかかわる仕事という意味では、医者と農業は共通している。発芽玄米を開発してはどうかと早川院長とも話をしていて、もう少し連携した関係を築いていきたい」と河合組合長。

taidan

さらに、中沢所長はJAの重要性について、こう話します。

「最近ますます食に対する意識が高まっているように思います。“食べる”というのは人間にとって最も基本的なことであり、暮らしのベースです。その国民の食を支える組織がJAなんです。食の問題、身体の問題、そうした人間にっとてのプライマルな、人間の一番基礎的な部分を、この組織は担ってる。僕がなぜJAに近いところで活動しているのかというと、文化の一番根幹の部分に触れてる重要なことだと思っているからなんです」(中沢所長)

 

今回報告された3つの事例は、実践的に取り組んでいるものだけあって、とても具体的なものでした。こうした各分野において抱える問題は、決して個別なものではなく、そのどれもがつながっています。それを、一つひとつ、知恵と技術、人的ソースを使いながら、問題をクリアにしていくこと。地域に足をしっかりとつけながらこれからも生きていくために、まずはここから始める。その小さくとも、確実な一歩が見えた、公開研究会でした。

ojizou

(文/薮下佳代 写真/JA共済総合研究所、野生の科学研究所)

 

Page Top