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長谷川祐子×中沢新一トークショー《キュレーションの力》レポート

2013/06/10

4月14日(日)、長谷川祐子著『キュレーション 知と感性を揺さぶる力』(集英社新書)の刊行を記念した長谷川×中沢トークイベントが行われました。東京都現代美術館のチーフキュレーターであり国際展での活躍も華々しい長谷川さんと中沢所長は、これまでにふたつの展覧会を一緒に創り、お互い「野生の感の良さ」を認め合う仲。ふたりの久しぶりの共演に、会場には多くのオーディエンスが集まりました。

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早速今回のテーマである「キュレーションとは何か?」という問いから、対談が始まります。めまぐるしく変わる世界の前線に立ち、グローバリズムやそれに伴う資本移動・価値の変換のさなかで活躍するキュレーターの役割を、ふたりはそれぞれあるものに喩えました。

絶え間なく動く情勢に対しリアクションを取りながら、世界をマッピングし、進む先のヴィジョンを示し続ける——そのようなキュレーターを長谷川さんは「水先案内人」と呼びあらわします。既存の価値観が揺さぶられている現在、軽やかな思考や実践に依ってナビゲーションを行い続ける人は一層重要になってきています。アーティストや文筆家と同様に、キュレーターも展覧会を作ることによって自分の視座を示した地図を描いているというのが長谷川さんの考え。そのような案内人たちの描く地図を見ることにより、私たちは現在の自分の立ち位置を照らし出したり、一緒に歩いたりすることが可能になるのです。キュレーター=案内人は、揺れ動く世界の中でどこに進むかわからなくなった時、少しだけ道を照らして私たちを導いてくれる存在と言えるでしょう。

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一方中沢所長は、ものの特質や革新性を見抜く力を持ち、共同体の外の世界と常に交換/交感を行うキュレーターを「マーチャント」(商人)と捉えました。大航海時代からIT革命までを振り返ると、自由交換(貿易)が進む驚異的な速度とそれに伴う国家間の障壁の解体から、その土地の固有文化を守ることが難しくなってきている現状が浮かび上がります。そんなグローバル化の面白さと危険性を熟知し、金融・資本の流動と近い働きをしながらも全く違う流れを作ろうとする長谷川さんのようなキュレーターを中沢所長は「創造的なマーチャント」と評して、その両刃的アプローチは資本主義が向かう破滅的な末路を避けるひとつの鍵になるのではないか、と語りました。

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今回両者が大前提にしていたのはグローバル化やキャピタルフローによるドラスティックな世界変化の模様と、それによって考え方を変えざるを得ない私たちの状況です。情報化がその大事な一端を担っていることを踏まえ、長谷川さんから情報と知識の違いとは、体験の重要性とは何かという質問が中沢所長に飛びました。それを受けた中沢所長は、情報化できない伝達の方法である「暗黙の身体知」をとりあげ、人間の文化の根源をそこに見出します。食、裁縫、建築、詩など身体知の領域の情報化は非常に難しいものですが、日本の産業もその集合体で出来ていることが多いのだと。日本文化には暗黙知によって受け継がれるものが多く、これからのわれわれの財産になるものであると中沢所長は断言します。これには長谷川さんも頷き、「アートはそのレイヤーの重層性から、それが含む情報がすぐにはわからない所にある」とした上で、その探索によって個々人の生きた知識が生まれると指摘します。そのためにも興味を誘う仕掛け(エントリーポイント)を作り、作品がしっかりとオーディエンスに伝わってひとつの体験となるよう尽力することが「キュレーター=マーチャント」の醍醐味だと語り、約1時間半のトークを締めくくりました。futari2

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